Machinakaの日記

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映画を見る前に必読!! ヘイル・シーザーとの関係は? 「アイヒマンショー」批評

 

 

こんばんは、Machinakaです。

 

今回批評する映画はこちら

 

 

「アイヒマン・ショー」

 

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 はい、久しぶりにヒューマントラストシネマ有楽町に行きました。最近は新宿の映画館ばかり行ってたので。

花金なのに、みんなお酒を飲まずに映画館に通いつめていたみたいで、ほぼ満席の状態でした。でも、観客のマナーは良いし、やっぱり大好きな映画館です!

 

www.ttcg.jp

 

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というわけで、早速行ってみましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

1.あらすじ

 

 

ナチスドイツによるホロコーストの実態を全世界に伝えるために奔走したテレビマンたちの実話を、テレビドラマ「SHERLOCK シャーロック」のワトソン役で知られるマーティン・フリーマン主演により映画化。1961年に開廷した、元ナチス親衛隊将校アドルフ・アイヒマンの裁判。ナチスのユダヤ人たちに対する蛮行の数々とはどういうものだったのか、法廷で生存者たちから語られる証言は、ホロコーストの実態を明らかにする絶好の機会だった。テレビプロデューサーのミルトン・フルックマンとドキュメンタリー監督レオ・フルビッツは、真実を全世界に知らせるために、この「世紀の裁判」を撮影し、その映像を世界へ届けるという一大プロジェクトを計画する。プロデューサー役をフリーマン、ドキュメンタリー監督役をテレビシリーズ「WITHOUT A TRACE FBI 失踪者を追え!」のアンソニー・ラパリアがそれぞれ演じる。監督は「アンコール!!」のポール・アンドリュー・ウィリアムズ。

 https://eiga.com/person/91869/

 


マーティン・フリーマン主演映画『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』予告編

https://eiga.com/person/91869/

 

はい、一言で言えば、「ナチス・ドイツが犯したユダヤ人大虐殺の主導者の裁判を巡るテレビ番組制作の物語」です。

 

ご存知の通り、そもそもユダヤ人大虐殺を企てたのはアドルフ・ヒットラーですけど、彼は敗戦を悟って自殺しましたから、裁判にはかけられなかったんですね。しかし、彼の部下は生き残っていた。アドルフ・アイヒマンが逮捕され、裁判に掛けられる様子をテレビ番組が制作するという話です。

 

 

 

 

2.映画の感想

 

非常に真面目な映画でしたね。

なんせ、最初からホロコーストの映像が流れて、ナレーションから入りますから。まるで、NHKのドキュメンタリー番組を見ているみたいでした。

 

特に、膨大な資料映像を多用しているところから、「新・映像の世紀」を見ているような感覚でした。

 

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https://www.nhk.or.jp/special/eizo/

 

 

実際にあった裁判の物語を描いているわけですし、ホロコーストの戦犯を扱う話ですし、エンタメ性を求めてはいけない映画です。

 

ただ、劇映画にする意味はあったと思います。何故なら、これはアイヒマンの裁判自体を描くものではなく、裁判をテレビ中継したテレビマンと映画監督の物語だからです。

 

何故映画監督がテレビの中継に必要だったのかについては、これから説明していきますけども、裁判が行われた1961−1962年の時代背景を知っておくと、非常に見応えのある映画だと思います。

ただ、60年代当時を詳しく知っている人は、現代ではとても少ないように思います。特に昭和後半に生まれた人にとっては、リアルタイムで経験したことがない話なので、理解するのが大変だと思います。

 

アート映画とは対極的な、非常に写実的な映画なんですが、前知識がいる映画です。

 

そこで、今回は裁判の解説に加えて1961−1962年の時代背景を解説するとともに、いかにテレビ制作が大変だったのかを説明したいと思います。

 

 

 

3.アイヒマン裁判

 

ホロコーストの戦犯、アドルフ・アイヒマンは、ナチス・ドイツの敗戦後、アルゼンチンで亡命生活を送っていました。アルゼンチンは、ナチス・ドイツと親しかったためです。

しかし、ユダヤ人率いるイスラエル諜報特務庁の必死の捜索により、アイヒマンを拘束。なんとユダヤ人の聖地、イスラエルにてホロコーストに関する裁判が行われました。

まさに四面楚歌の状況での裁判。裁判当時のアイヒマンの表情は以下の写真の通り。

 

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https://ecx.images-amazon.com/images/I/41ddLk3jKUL._SL300_.jpg

 

ナチス・ドイツ時代はこんなにイケイケな感じだったのですから、敗戦後どのような人生を送っていたのかが分かりますよね。ま、当然ですけど。

 

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https://pds.exblog.jp/pds/1/201604/27/20/e0345320_23462541.jpg

 

 

 

 

4.1961年−1962年の出来事とテレビ

 

1960年代に入ると、テレビが急速に普及してきました。

日本でもテレビ加入世帯が1000万世帯を超え、当時の世帯人員4.14人(国土交通省資料より)を考えると、4000万人以上はテレビが身近にある時代です。

つまり、映画が衰退し、テレビが発展している時代なんですね。

アイヒマンの裁判でも、テレビ中継が行われることになりました。

中継を行うため、映画ではなくテレビが使われたわけです。もちろん、テレビ放送よりもラジオの生中継の方が早かったんですが。

 

また、映画で取り上げられていた1961年−1962年で起きた重要な出来事は、以下の通りです。

 

・1961年4月:ソ連の有人宇宙船が世界で初めて地球一周に成功

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https://stat.ameba.jp/user_images/20130327/10/tennisdehassuru/f0/07/j/o0494035012475143251.jpg

 

・1962年1月:アメリカがキューバの加盟国資格を停止

・1962年2月:アメリカのケネディ大統領が、キューバとの全面禁輸を発表

 →核戦争寸前まで緊迫状態に陥ったキューバ危機へと発展

 

 

 

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https://www.maedafamily.com/cuba/turkymisairu.jpg 

 

つまりですね、世の中はアイヒマンの裁判よりも、宇宙飛行やらキューバ危機で話題が持ちきりだったんですね。

 

だから、普通にテレビ中継をしても視聴率が取れない状態だったんです。

 

 

 

 

 

5.アイヒマンショーを作った男たち

 

そんな時代背景の中、アイヒマンショーの放映権を獲得したのは、アメリカのテレビマンでした。

 

これが本作の主人公である、テレビプロデューサー=ミルトン・フルックマンです。

 

 

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 https://pbs.twimg.com/media/CiiprbDUgAAeDMn.jpghttps://pbs.twimg.com/media/CiiprbDUgAAeDMn.jpg

 

映画ではマーティン・フリーマンが演じています。

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https://www.1242.com/lf/asset/uploads/2016/04/03-1.jpg

 

 

そして、プロデューサーから依頼されてイスラエルにやってきたレオ・フルヴィッツ監督です。

 映画ではアンソニー・ラパリアが演じています。

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https://pbs.twimg.com/media/CdmK5tRUYAAVYQ3.jpg

 

 ここで重要なのは、アメリカが放映権を獲得したということです。

 

 

 

 

6.ヘイル・シーザーとの関係は?

 

ちょっと話は変わりますけど、最近公開した映画に「ヘイル・シーザー」がありました。1950年代のハリウッド映画界を描いた映画でしたけど、この映画と本作は非常に密接な関係にあります。

 

 

www.machinaka-movie-review.com

 

1950年代のハリウッドは、共産主義を排除するいわゆる「赤狩り」が横行していました。

ハリウッドはもともとユダヤ人が作った物というのは有名ですけど、ユダヤ人には共産主義に賛同していた人が多く、赤狩りの対象になっていたんですね。

ヘイル・シーザーで、ジョージ・クルーニーが誘拐された先に、脚本家集団がいたのを覚えていますか?

あれは、赤狩りに反対している反政府の脚本家たちなんです。

 

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 https://shimamyuko.files.wordpress.com/2015/10/0855e-holly10.jpg?w=561&h=463

 

つまり、ハリウッドでは脚本家たちが赤狩りにあっていて、思うように映画が撮れなかった状態にあるんです。

例えば、共産主義に抵触するような映画を作りなんかすれば、ハリウッドのブラックリストに入ってしまい、政府に通報されてしまうんです。その頃は映画よりも新聞やテレビが力を持っていた時代なんですね。「映画は斜陽産業」と呼ばれていた時代ですから。

 

本題に戻りますと、本作でプロデューサーに抜擢されたレオ・フルヴィッツ監督自身もアメリカに住んで映画の仕事をする以上は、赤狩りの恐怖や閉塞感があったということなんですね。

 

プロデューサーのミルトンが「全体を写せ!」とテレビニュース的な番組作りを主張する一方で、このレオ監督は「アイヒマンの顔を写せ! 目に寄れ!」と、映画的なカメラの演出をしています。

つまり、これはテレビと映画の対立を象徴しているんですね。

レオ監督はテレビ番組にも関わらず、主人公を決めるかのようにアイヒマンに執着し、ドキュメンタリー映画を取ろうとするんです。

おそらく、彼はアメリカで思うような作品が取れない分、このテレビ番組で自分の映画監督としての表現をしたかったんじゃないかと思うんです。

 

黙ってカメラを全体的な構図にしていれば、お金はもらえるし、波風立ちませんよ。職業監督に徹することなく、自分の作風を突き通したのには感動しました。

普通に考えれば、ホロコーストの主犯を映像で写すんですから、ドキュメンタリー映画を取るよりもテレビ番組のニュースとして映像を作った方がいいはずです。

 

しかし、世の中はガガーリンの「地球は青かった」発言や核戦争が本格化していたキューバ危機の話題でいっぱいなんです。普通のやり方じゃあ世界の人々は裁判に注目しないんですよ!!

 

私は、テレビ的な番組作りよりも、レオ監督が主張したドキュメンタリー映画のような番組作りに賛同します。

 

 

 

7.今この映画を見る理由

 

映画の最後に、裁判で

「人の肌の色や人種で差別するなら、誰しもアイヒマンになる可能性がある」と述べてこの映画は終わります。

 

この発言を聞いて、この人を思い出してしまいました。

 

 

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https://www.newsweekjapan.jp/reizei/assets_c/2015/08/reizei20150827-thumb-720xauto.jpg

 

最近のニュースではヒラリー氏の支持率を超えた、なんてニュースもありますけど。

 

トランプ氏は、強烈な人種差別主義を謳ってアメリカの大統領になろうとしています。メキシコに万里の長城を作るなんてアホなことも。

 

歴史を繰り返すつもりか!? ステレオタイプの差別をする人間は、アイヒマンに成ってしまうんですよ!!

 

トランプ氏が絶好調の今だからこそ、我々はこの映画を見て、彼の大統領に「No.」と強く主張しなければいけないんです!!

 

 

 

 

 

8.おまけ 関連・類似してるなと思った映画

 

 

アイヒマンの裁判があった時代は、ナチス・ドイツ亡き後もヒットラーを信仰する集団、いわゆるネオナチが活発だった時代です。

 

ネオナチからすれば、アドルフ・アイヒマンは「神様の右腕」のような人物。彼を裁判することに反対するのはもちろん、その様子を全世界に流す行為など言語道断。つまりネオナチによるテレビ制作の妨害が起こるのです。

 

プロデューサーのミルトンには脅迫電話が多数。「家族がどうなってもいいのか?」と脅してきます。

 

1960年の時代背景・裁判・主人公への妨害から、スピルバーグの「ブリッジオブスパイ」を思い出しました。

 

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ソ連のスパイを擁護するトムハンクスの元に脅迫電話がかかってきて、家の窓ガラスが割られて、非常に緊迫した状態が描かれていましたね。

 

 

 

 

 

 

また、アイヒマンの裁判で、証拠資料としてホロコーストの映像を流している場面がありましたけど、そこで検事から出てきた言葉「ゾンダーコマンド」を聞いて、昨年アカデミー賞受賞映画「サウルの息子」を思い出しました。

 

 

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サウルの息子は劇映画で、詳細な虐殺映像はモザイクのようなぼかしで隠されてましたけど、この映画ではモザイクなしで苛烈な映像が流れていました。ホロコーストの恐ろしさが描かれていますので、グロいとか怖いとかそんなの関係なし。私に子供ができたら、この映画を見せたいと思いますよ。小学校の生ぬるい授業を受けるより、この映画の方がよっぽど参考になります。

 

 

 

 

 

 

 

思った以上に長文になってしまいました。

正直、エンタメ性は皆無だし公開館も少ないです。このブログを見てくれる方も何人いるか分かりませんけど、アクセス数に関係なく、言わなきゃいけないことがあると思うんです。

 

というわけで、今だからこそ映画館でウォッチしてほしいと思います。

オススメです!!!

 

 

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